ゴーストオブツシマ(Ghost of Tsushima)、ずっと気になっていた作品です。先日、とうとうプレイすることができました。今回の記事はこの作品の主にシナリオ面のレビューを書いてみたいと思います。
なお、今回の記事はゲームのネタバレを含みますので、未プレイの方はご注意ください。
私はPCゲーマーなので、ずっとプレイできなかったんですよね。PS4で発売されたのが2020年7月で、PC版がようやくリリースされたのが2024年(今年)の5月ということで、ほぼ4年待ったことになります。
(「いやPSくらい買えよ」という声も聞こえてきそうですが、なにぶん予算がね…)
そんなこんなで、最近になってやっと時間ができたこともあり、満を持してこの作品をプレイするに至ったというわけです。
Ghost of Tsushimaは噂にたがわぬ神ゲーだった
なにぶん4年前にリリースされた作品ですので、ゲーム性についてはいたるところで語り尽くされています。結論から言うと「神ゲー」でした。
何より感動したのは、徹頭徹尾貫かれている「ホスピタリティの高さ(もてなしまくってやるぞ!)」ですね。具体的に例を上げると、この作品はチェックポイント(セーブポイント)が非常にきめ細かく設定されており、ミスして死亡した際に、すでにクリアしたポイントを再度やり直すことを強いられることなくやり直すことが可能になっています。この細かさが尋常ではない。
つまり、強ボスに何度も倒されて、その都度トコトコと長い道中を何度もやり直す…みたいな疲れる経験をしなくてよいデザインになっているということです。タイパ重視の現代社会に最適化しているともいえますね。
他にも、オープンワールドのゲームにありがちな「細かいイライラポイント」みたいなものが明らかに意図的に徹底的に排除されていると随所で感じました。ですのでプレイヤーとしてはとても快適にゲームに集中することができるんですね。
徹底的に貫かれたホスピタリティは、プレイヤーが邪魔なノイズに邪魔されることなく、ストーリーに没入することを可能にしています。
武士道の負の側面すらも描く上質なシナリオ
本作のシナリオにおいて、私が最も唸らされたのは、主人公の仁が蒙古軍(モンゴル軍)の陣地に侵入して酒に毒を混ぜ、蒙古兵を大量に殺戮した行為を、仁の叔父で主君でもある志村が咎めるシーンです。
仁は元寇という戦争を通して、人々が容赦なく殺し合い裏切り合う「地獄」をこれでもかというほど見てきている。蒙古兵を毒殺するという決断も、そんな仁なりに考え抜いてのものです。われわれプレイヤーはそのことをわかりすぎるほどにわかっている。
しかし、仁の叔父である志村はコテコテの保守的な鎌倉武士です。酒に毒を混ぜて敵を毒殺するなど「誉(ほまれ)」にもとる行為であり、そのような所業を行っていては、たとえ戦に勝ったとしても武士の権威は崩壊してしまうという考えの持ち主です。
志村
鎌倉に咎められることになる
だが まことにお前の咎か?
すべてはあの下人めの企てであろう
仁
叔父上…志村
冥人の名を捨て
この所業の咎はあの女に負わせよ
皆に伝えよ
お前の名は志村仁
将軍様の御家人である わしの――
息子だと
ここで志村が言う「あの下人め」とは、主人公の仁とずっと命運をともにしてきた盟友である女野盗「ゆな」のことです。つまり、ここで志村は仁に対して、「武士の誉」を守るために友を裏切れ。すべての罪をあの女にかぶせて切り捨てよ、と持ちかけているわけです。
私を含め、日本人の多くが「武士道」をポジティブなものとしてとらえているのではないかと思います。武士道は現代に生きる私達の中にも生きており、「日本人らしさ」のカタチを形成するうえでとても大きな存在感を持っている。私はそのように考えています。
しかし、武士道って、ズルくもあり、とても残酷な面もあることは否めません。あらゆるものごとがそうであるように武士道にも負の側面があります。
体面(メンツ)を何よりも重視し、体面が損なわれるような失敗をしでかしたら、そこから名誉回復するためには「死」をもって贖うしかない。また体面を保つためには「弱き者」をスケープゴートにすることも辞さない。
武士道が持つこうした負の側面の残滓は、現在の日本におけるいろいろな社会問題に見ることができます。たとえば、不祥事を起こした官僚や政治家が自ら命を立つことでその幕を引く。人々は問題を追求する意思をなくし、何が問題だったのかについて議論することも避けられ、起こったことはほどなく人々の記憶から忘れ去られていく。そしてまた同じような問題が起こる。
ちなみに、武士道がもつ残酷性については、私の大好きな映画の一つである「切腹」(小林正樹監督)でもあますところなく描かれています。
驚嘆すべきは、本作は海外のスタジオで作成されたということ。純日本人の私から見ても全く違和感がないどころか、武士道が持つ負の側面という深いテーマまで描ききった本作には感動を禁じえません。
人と志村が対峙するラストもまた、素晴らしいものです。どちらが正しい・間違っているということはない。ただ、彼らはほんの少し、生きる道を違えただけなのです。
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