私は、ボディビルディングに基づいた筋トレ(ウェイトトレーニング)を趣味・ライフワークとして30年以上になります。
私の人生において、ドーピングに手を出したことがないことはもちろんですが、奇をてらった理論やごく一握りの人々の間でしか効果が確認できていないニッチ過ぎる理論などではなく、多くのトレーニーの間で共通して認識されているであろう「王道」の定説を常にキャッチアップするよう心がけています。
というと何だか勉強熱心アピール、意識高い系アピールのようですが、自分の中ではあくまでも楽しく、好奇心のおもむくままに自分の身体を「実験台」として様々な試みを楽しんできました。
今回の記事では、ボディビルやフィジークなどの競技に代表される「ボディメイク」の世界で、現在、定説・王道として考えられている食事と栄養にまつわる知識をシェアしたいと思います。
今回の記事の内容は、すでにボディメイクの基礎知識がある方には百も承知の内容でしょう。ですので改めて読む必要はないかと思います。
ですが、これから筋トレを始めようという方で、
- 筋肉を増やしたい
- 体脂肪を減らしたい
と望んでいる人には、筋トレの世界における「鉄板」「王道」の定説を学ぶ入口として有益な情報かと思います。
また、特にボディメイク競技に関心はないが、ダイエットに関心があるという方が食事と栄養を考えるうえでも役立てていただける情報かと思います。
ボディメイクにおける栄養のピラミッド
まず、この三角形をごらんください。
これは、ピラミッドだと理解してください。物理法則が働くリアル世界におけるピラミッドです。
つまりどういうことかというと、たとえば土台がガタガタなのに、上に上にと石を積み重ねていき、ピラミッドを建てようとしても、どこかで崩壊してしまいますよね?
それと同じで、このピラミッド図も、土台である一番下の階層が最も大切で基本的なこと、と理解してもらえれば大丈夫です。つまり、最も下にある土台である【カロリー収支」の層が最も大切な概念であり、そこから上に行くほどに些細なこととなる、ということです。
この図を以後、ボディメイクにおける「栄養のピラミッド」と表します。
1.土台~カロリー収支の原則
それではまず、ピラミッドのもっとも重要な土台である一番下の階層「カロリー収支の原則」について説明します。
といっても、非常に簡単なことです。
体脂肪を減らしたい場合
- 消費カロリーが摂取カロリーを上回ると体脂肪が増える
- 消費カロリーが摂取カロリーを下回ると体脂肪が減る
筋肉を増やしたい場合
- 消費カロリーが摂取カロリーを下回る食生活を続けて筋肉を増やすことは「非常に難しい」
- 消費カロリーが摂取カロリーを上回る食生活を続けて筋トレを行えば筋肉を増やせるが体脂肪も増えてしまう
ということだけです。
まとめると、痩せたい(体脂肪を減らしたい)場合は
消費カロリー > 摂取カロリー
となる食生活を続ける必要があるし、逆に筋肉や体脂肪を増やしたい場合は、
消費カロリー > 摂取カロリー
となる食生活を続ける必要がある。いちばん重要な「カロリー収支の原則」とは別に複雑でも難しくもなく、たったこれだけのことです。
カロリー収支を具体的に考えてみる
体脂肪を1kg減らすためには、7,200kcalを消費する必要がある
体脂肪を1kg減らすためには、7,200kcal(キロカロリー)を消費する必要があります。
これは、体脂肪を減らしたい(二の腕のプヨプヨ、たるんだお尻などをなんとかしたい)という場合の考え方の「超」基本となります。
7,200kcalとはどのくらい?
日常のトレーニングで最も多くのカロリーを消費しているアスリートは、競泳選手だといわれています。オリンピック出場クラスの競泳選手は、おおむね約5,000kcalをトレーニングで消費しており、加えてトレーニング以外にも日常生活で消費するエネルギーもありますから、合計で7,000kcalくらいを消費していることになりますね。
一日の大半をスポーツのトレーニングに費やしている人たち、しかも世界レベルの選手たちの1日の消費カロリーが、ちょうど7000kcalくらいということです。イメージがつきましたかね?
1日で7,200kcalを消費するのは非現実的
ここまで読み進めてきて、絶望した方もおられるのではないでしょうか。
「オリンピック選手みたいなトレーニングなんてできるわけがないよ…」
と感じられたのではないですか?
たしかに、1日で7,200kcalを消費する運動をする生活を行うことは、運動による凄まじい疲労をもたらします。そもそも大半の人にはそんな時間が取れません。したがって一般人にはほとんど不可能なことでしょう。
でも安心してください。「体脂肪を1kg減らすためには7,200kcalを消費しなければならない」というのはすでに述べたとおりですが、これは何も「1日で消費しなければならない」という意味ではありません。毎日少しずつ小分けにしてマイナスの貯金を積み重ねていけばいいのです。
消費カロリーの考え方
では具体的に説明してみましょう。あなたの1日の消費カロリーが、2,000kcalだとします。
これは、あなたが「1日中何もせず、頭も使わず、横たわって安静にして1日を過ごした場合に消費するエネルギーである「基礎代謝1」で消費されるエネルギー量と、あなたが仕事や運動などで消費するエネルギーである「活動代謝」で消費されるエネルギー量を足したものです。
1日の消費カロリー = 基礎代謝 + 活動代謝
ですので、考え方としては、1日の消費カロリーである2,000kcalから、一定のカロリー量をマイナスさせて「アンダーカロリー」の状態を継続することができれば、毎日少しずつマイナスが積み上がっていき、体脂肪は確実に減っていくということです。
体脂肪減量ペースはお望み通りに
さて続けます。具体的に計算してみましょう。
1日の消費カロリーが2,000kcalのあなたが、30日をかけて、1kgほど体脂肪を減少させたいと望んだとします。
その場合、1日に何キロカロリーをマイナスすれば実現可能なのか?
それは以下のかんたんな計算で求められます。
7200 ÷ 30 = 240
ですので、あなたが1日に消費するカロリーである2,000kcalから240kcalを引いた「1,760kcal」の食生活を30日ほど続けた場合、マイナスの累積が7,200kcalに達し、そのころあなたの体脂肪はちょうど1kgほど低下していることが期待できる、というわけです。
繰り返しになりますが、この「カロリー収支」がボディメイクの成否の大部分を左右します。
体脂肪を減らしたければアンダーカロリー(消費カロリー > 摂取カロリー)になる食事を続けなければ実現はほぼ不可能ですし、逆に筋肉を増やしたい、あるいは体脂肪を増やしたい、という場合はオーバーカロリー(消費カロリー < 摂取カロリー )の食事を継続しなければこれもまた実現は非常に困難だということです。
2.PFCバランス
栄養のピラミッドの次の階層は「PFCバランス」の階層です。
PFCバランスについては、前項の「カロリー収支」を理解し、自分が理想とする身体を作るためのカロリーバランスは理解できた。さて次はそのカロリーの内訳をベストなものにしていこう、と理解してもらえば大丈夫です。
PFCとは、以下の「三大栄養素」から頭文字をとった略語です
- P:Protein(たんぱく質)
- F:Fat(脂質)
- C:Carbohydrate(炭水化物)
PFCバランスとは、これらの三大栄養素の摂取割合を指し、健康維持や目的(減量、筋肉増強など)に応じて最適な比率が異なるとされます。
栄養のピラミッドにおける、この「PFCバランスの階層」の重要性について説明する前に、まずこの三大栄養素について以下簡単に説明します。
1. たんぱく質 (Protein)
たんぱく質の役割 | 筋肉や臓器、皮膚、髪の毛など、体の構造を作る材料となります。また、酵素やホルモンの材料としても重要です。 |
エネルギー源 | 100gあたり約400kcalを供給しますが、エネルギー源としてよりも体組織の維持・修復に優先的に使われます。 |
たんぱく質を多く含む食品の例 | 肉、魚、卵、大豆製品(豆腐、納豆など)、乳製品など。 |
2. 脂質 (Fat)
脂質の役割 | エネルギーを効率よく蓄えるための栄養素です。細胞膜の構成成分やホルモンの合成にも必要です。また、脂溶性ビタミン(A, D, E, K)の吸収を助けます。 |
エネルギー源 | 100gあたり約900kcalと、三大栄養素の中で最も高いエネルギーを供給します。 |
脂質を多く含む食品の例 | 植物油、バター、ナッツ類、アボカド、魚油など。 |
3. 炭水化物 (Carbohydrate)
炭水化物の役割 | 主にエネルギー源として機能します。脳や神経系は炭水化物由来のエネルギーを優先的に利用します。 |
エネルギー源 | 100gあたり約400kcalを供給します。 |
炭水化物を多く含む食品例 | ご飯、パン、麺類、果物、野菜(特にいも類)など。 |
理想的なPFCバランスはあなたの目的によって異なる
すでに述べたように「PFCバランス」とは、これらの三大栄養素の摂取割合を指します。そして「理想的なPFCバランス」は、あなたの目的によって異なります。
- 健康維持
- 減量(ダイエット)
- 筋肉増強(バルクアップ)
といった目的に応じて最適な比率が異なります。日本の食事摂取基準(2020年版)では、一般的なバランスは以下の通りです。
- たんぱく質(P): 総エネルギーの13~20%
- 脂質(F): 総エネルギーの20~30%
- 炭水化物(C): 総エネルギーの50~65%
「最も基本となるカロリー収支」と「PFCバランス」の考え方
では、ピラミッドの最も基本となる第一階層である「カロリー収支」と、第二階層である「PFCバランス」について、具体的にボディメイクに活かすにはどう考えたらいいのか?
それは、最も重要なカロリー収支の条件を満たしたうえで、次は最適なPFCバランスについて考慮された食事を継続すれば、あなたの狙っている効果を効率よく実現できる、と考えて間違いはありません。
例を上げて説明します。たとえばあなたが体脂肪率を減らしたい(ダイエットをしたい)とすると、
- 摂取カロリー < 消費カロリーとなる食事を続ける準備ができた
- 「次はPFCバランスを考慮しよう。そうすればもっと効率よく体脂肪を減らせるはずだ」
ということです。
日本人は炭水化物過多になりがち
すでに述べたように、日本の厚生労働省が示している一般的なPFCバランスは「P:13~20%、F:20~30%、C:50~65%」です。
日本人はとかく炭水化物が大好きで、日々の食事が炭水化物過多になりがちなので注意が必要です。たとえば、
- 朝食:かき揚げそば
- 昼食:チャーハン、ワンタンスープ、杏仁豆腐
- 間食:スナック菓子、チョコレート
- 夕食:ビール、チューハイ、ラーメン、プリン
このような食事では、たんぱく質(P)が圧倒的に足りませんし、炭水化物(C)が多すぎます。このような食事を続けていては、あなたの狙いが筋肉増強であれ体脂肪減少であれ、目的を達成することは難しいでしょう。
3.その他(ビタミン・ミネラルの重要性、GI値など)
最後の第三階層「その他」については、まさに「その他」です。
だからといって重要ではない・おろそかにしてもいい、ということではなく、ボディメイクを実現するうえでは、あくまでもこれより下の階層が充実していなければ、第三階層だけを重視しても効果は薄い、ということです。
ビタミンやミネラルを摂取することは健康を維持するうえでも非常に重要ですし、GI値2を意識した食事(低GIの食品を摂取する)をすれば、血糖値の乱高下(インスリンスパイク)を避けることができ、栄養素が体脂肪に変わる割合を低下させることができるとされています。
ですが、再三にわたっての繰り返しとなりますが、これらの要素を意識する前段階として、土台となる「カロリー収支」や「PFCバランス」において理想的な状態を実現できていることが前提にあることを忘れないでください。
栄養のピラミッドを理解すれば、おかしな情報に惑わされることはなくなる
巷には、有象無象のダイエット情報、肉体改造情報があふれています。特に、ここ数年の「フィットネスブーム」に乗っかってビジネスにつなげようとする膨大な量の試みが市場に存在します。
残念なことですが、そうした情報の中には、ずいぶんと「おかしな情報」も存在することは事実です。
ですが、今回の記事で紹介した「栄養のピラミッド」を頭に入れておけば、そうした「おかしな情報」に惑わされることはなくなります。
たとえば、誰かが、あるいは、なにがしかの商品やサービスが、以下のような主張をしていたとします。
「このやり方でPFCバランスに配慮すれば、好きなだけ食べても痩せられるんです!」
はい、ボディメイクにおける栄養のピラミッドを学んだあなたは、この主張がおかしな主張であることがわかりますよね。それは、最も重要な土台であるカロリー収支を無視しているからです。いくらPFCバランスを考慮したとしても、「摂取カロリー > 消費カロリー」の状態(オーバーカロリー)では、体脂肪は減少することはありません。
他には、このようなケースもあるでしょう、
「ビタミン〇〇を豊富に含むので無理なく美しいボディに!」
後述しますが、これは「美しさ」という抽象的な概念を持ち出したごまかしとも言える表現の例です。
このような主張についても、栄養のピラミッドの知識を持つあなたは、
「ああ、土台を無視して上の方だけを強調してるおかしな主張だな」
と看破することができるでしょう。
こういった主張、売り文句は、ガタガタで隙間だらけの土台の上に巨大な石を積み上げようとしているようなものです。
これではどれだけ努力を重ねようとも、いつまでたってもピラミッドは完成することはありません。
まぎらわしい、わかりにくいスローガン
「健康」と「体脂肪減少」を混同している
「健康になる」ことと「体脂肪が減少する」ことの間には相関性はありません。健康になったら体脂肪が減少するわけではないし、体脂肪が減少したからといって必ず健康になるわけでもない。それをあたかも関連があるかのようにミスリードを誘うのは、悪質なファンタジーの流布であるといえます。
健康と体脂肪の増減については分けて考えるべきでしょう。あなたが追求する「美」と「健康であること」は必ずしも両立できるとは限りません。例を上げれば「モデル体型」のような極端な痩せ型は逆に健康を損ねるという側面もあるわけです。
私は個人的に、健康を損なわなければ手に入らない「美」を手に入れたいとは思いません。
おわりに
以下の記事にて、トレーニング初心者の方にオススメの自宅用器具についてまとめています。ぜひご一読ください。
- Basal Metabolic Rateの略 ↩︎
- GI値(グリセミック・インデックス、Glycemic Index)は、食品が体内で血糖値をどれだけ早く、またどの程度上昇させるかを示す指標。1980年代に開発され、糖尿病患者の食事管理や健康的な食生活を考える際に役立つ情報として広く活用されている。 ↩︎
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